空に歌えば――平和・人権・環境(1)

イマジンを子どもたちと――いなむら一志


ぶきっちょだけど 正直に
一歩一歩 歩いてきた
人を傷つけ そして傷つき
一歩一歩 生きてきた
名もない街の かたすみで
名もない一人一人が
肩寄せ合い はげまし合い
築き上げた 国だから
わたしに あなたに
語りかけてくれないはずがない 日本
WE ARE 80 YEARS YOUNG
WE ARE 80 YEARS YOUNG

 

 

 

 いなむら一志(稲村一志)は北海道・札幌を本拠地とするミュージシャンだ。仲間とフォークロックバンド「第一巻第百章」を結成したのが一九七〇年だから、やがて四〇年になろうかという活動歴を持つ。HBCラジオで「いなむら一志のサタデークラブ」のDJを担当する一方、平和集会や教育基本法改悪反対集会などにも積極的に登場して、参加者とともに平和への願いを歌い続けている。
上田文雄(現・札幌市長)の名とともに知られる「Kempo
No.9(日本国憲法第九条)」もいなむらの作品で、憲法前文や第九条を歌った楽曲の中でも異彩を放っている。
 ミニアルバム『他事騒論』(OFFICE INAMULAND、二〇〇四年)に収められた「WE ARE 80 YEARS YOUNG」は、「語りかけてくれないはずがない 日本」「微笑みかけてくれないはずがない 日本」と歌う。単なる日本回帰ではなく、日本を平和な国に変えていこうという思いが根本にある。
 北海道夕張市に生まれたいなむらは、北海道教育大学在学中に「第一巻第百章」を結成した。一九七一年、ライトミュージックコンテスト北海道代表に選ばれ、自主アルバム『Vol.1 Chap.100』、アルバム『Free Flight』(トリオレコード)を公表する。二つのアルバムは、二〇〇二年にショー・ボートの「喫茶ロックシリーズ」としてCD発売され、「シュガー・ベイブにも通じるサウンド・センスは早すぎたシティー・ポップスの証」といった紹介がなされている。「喫茶ロックシリーズ」には、吉田美奈子、憂歌団、吉田日出子、荒木一郎などが収められている。後に、二〇〇三年、「第一巻第百章」が再結集して、CD『花咲く曲がり角』、〇五年にはCD『同輩よ』を発表している。
七九年に「第一巻第百章」を解散し、いなむらは、八〇年、シングル『恋は急ぎ足』(トリオレコード)を発表してソロ活動に入った。
 他方、八三年の北海道知事選に際して、「横路孝弘と勝手に連帯する若者連合(勝手連)」の代表を務めたことが、いなむらの人生に大きな影響を与えた。勝手連は政党組織を越えた新しい運動の広がりを実現した。勝手連の活動により知事選出馬が決まり、横路知事を実現した。勝手連は、流行語になり、市民運動のスタイルの名称として定着した。
 八四年には「一村一ソング」を提唱し、活動を本格化する。後に九三年、CDアルバム『いなむら一志の一村一ソング<第一集>』(道内一六市町村収録)に集約されることになる。北海道の文化や政治のあり方にこだわり、ミュージシャンとしてできることをやり続けた。
 九〇年代には、CDシングル『星・波・風・歓喜の歌』(一%北海道五万人コーラス)を発表。九一年、CDアルバム『TOGETHER』(ナッシュビルレコーディング)、九七年、CDアルバム『ぼくは空の下 大地の上 君のそば』発表した。
最近は、息子のいなむら大とデュオを組み、二〇〇一年、いなむら一志・大のマキシシングル『CRY』(ロンドン録音)、〇二年、マキシシングル『好きでたまらない』、〇四年、『他事騒論』を発表してきた。
 『他事騒論』巻頭の「天安門1989. NEW YORK2001」では、二つの悲劇に向き合って、平和への思いを歌っている。

 誰のために戦うのか
 何のために殺し合う
 うばえるのは ひとつきりの命
 得られるのは 憎しみの連鎖 それだけ

 血に染まる沙漠
 歴史をあともどりする
 靴音が鳴り響く
 血に染まる沙漠
 もどらない九月のニューヨーク

 I wish I could・・・・
 I wish I could・・・・

 〇六年に発表した『イマジン』には、ジョン・レノンの「イマジン」「ハッピー・クリスマス」日本語版や、オリジナルの「Kempo No.9」などが収められている。「イマジン」日本語版は、他にも何人もがチャレンジしてきたが、しっくりとした日本語になっていない例が少なくない。いなむらは、子どもたちと一緒に歌えるように日本語版を工夫した。直訳では難しいので、意訳となったが、かなり元の意味に近い日本語版になっている。何より、これなら子どもたちにも歌いやすい。
 いなむらの次のテーマは、全道の子どもたちと平和の歌をつくり、ともに歌っていくことである。


いなむら一志&大『イマジン』(OFFICE INAMULAND)

<ウエッブサイト>
いなむら一志
いなむら一志のサタデークラブ

 

Imagine

天国もなければ
地獄もありゃしない
あるのは大地と
青い空だけ
イマジン 僕たちは
今を生きている

国などなければ
宗派などなければ
こんなに憎み合い
戦うこともない
イマジン 僕たちは
平和に生きる

君にとって僕はドリーマー?
夢なんかじゃない
いつの日にか 僕らは
ひとつになる

誰かの独り占めが
誰かを飢えさせる
今こそ人として
彼らに返そう
イマジン 僕たちは
全て分かち合う

君にとって僕はドリーマー?
夢なんかじゃない
いつの日にか世界は
ひとつになる


マスコミ市民2007年1月