問われた日本の人種差別
――人種差別撤廃委員会日本政府報告書審査
石原発言は人種差別
3月20日、人種差別撤廃委員会(以下「委員会」)は、2000年4月9日の石原慎太郎都知事の「三国人発言」は人種差別撤廃条約(以下「条約」)に違反する人種差別発言だと指摘した。
「13.委員会は、高い地位にある公務員による差別的発言、これに対して条約4条cの違反の結果として当局がとるべき行政上の措置も法律上の措置もとられていないこと、当該行為が人種差別を扇動し助長する意図がある場合にのみ処罰されうるという解釈に懸念をもって留意する。日本に対し、かかる事件の再発を防止するための適切な措置をとること、とくに公務員、法執行官および行政官に対し、条約7条に従い人種差別につながる偏見と闘う目的で適切な訓練を行うよう求める。」(以下、翻訳は反差別国際運動日本委員会訳を参照した)
これは石原都知事のことである。委員会の審査で名前が出た差別者は石原都知事だけだからである。
「石原発言は、三国人差別であり、外国人は犯罪者とする。残念ながら日本政府は何の対応もしなかった。それはなぜなのか。」(ロドリゲス委員)
「表現の自由と人種差別処罰は両立する。表現の自由は人種的優越思想の表現の自由ではない。こうした行為を野放しにしているように見える。石原都知事の差別発言に対応が講じられていない。」(ディアコヌ委員)
「石原発言には非常に傷いた。政府が見過ごすべきではない。中国帰国者もいる。多くの外国人が日本に行きたがる、そのもとで差別が起きるのはどの社会でもあることだが、大切なことはどのように対応するかである。日本は条約4条を留保している。言論の自由は保障しなければならないが、人種差別との闘いの問題は別である。これは表現の自由の問題ではない。表現を通じた他者への侵害である。言論の自由などとというが、社会に多くの混乱を起こし、アジアの労働者が排除された、経済的な損害と精神的損害が実際に発生している。表現の自由の問題ではない。」(タン委員)
こうした質問に対して日本政府(尾崎人権人道課長)は次のように回答した。
「三国人という言葉は特定の人種を指していない。外国人一般を指したものであり人種差別を助長する意図はなかった。『不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、災害時には騒擾の恐れがある』との言葉だが、都知事には人種差別を助長する意図はなかった。」
このため、さらに次のような指摘を受けることになった。
「石原発言は単に差別であるだけではなく、外国人を犯罪者扱いしようとしたものであり、驚きを禁じえない(強い口調で)。公の発言で外国人一般に対する表現を使っている。こうしたことは決して初めてのことではない。社会の中で歴史の中で、外国人、移住者がやってくれば必ず起きてきた問題である。例えばスペインの国会議員が冗談で『アジア人は国に帰るべきだ』と発言して役職を辞任した。人種差別宣伝流布は、表現の自由を侵害する主な要因である。ある集団を傷つける表現は、表現の自由を侵害する。これに対策を採ることが表現の自由を侵害するということはない。表現の自由を保障するためにこそ4条を適用するべきである。」(ユーティス委員)
こうした審査の結果として冒頭の「最終所見」がまとめられたのである。その直後、石原都知事は記者会見において、委員会を誹謗する発言をして、自分の差別発言を正当化した。日本政府も「最終所見」の勧告を実施するつもりはないと表明している。
日本政府報告書審査
1965年、国連総会はこの条約を採択した。60年代初頭に、西ドイツでネオナチが台頭しユダヤ人に対する差別が吹き荒れた。これに危機感を抱いた欧州各国が中心となって条約をつくったのである。
日本はこの条約をなかなか批准しなかったが、95年、アメリカが批准した直後に慌てて批准し、96年1月に発効した。政府は条約批准後1年以内に最初の報告書を委員会に提出し、審査を受けることになっている。日本政府報告書の締切りは97年1月であったが、大幅に遅延して2000年1月に提出した。3月8日と9日、委員会は、日本政府報告書の審査を行った。
条約1条は「人種差別」を定義しているが、定義は一般的なものであるため、解釈の必要が生じる。アイヌ、沖縄、被差別部落、中国帰国者などが適用対象であるか否かが問題になる。
日本政府はアイヌが適用対象になることは認めるが「沖縄、被差別部落、中国帰国者については適用対象ではない」という。わたしたち「人種差別撤廃条約NGO連絡会」のNGOレポートは、すべて適用対象にあたると主張した。委員会でもこの点に注目が集まった。
「政府報告書に含まれていないが部落民がいる。部落地名名鑑があるいう。雇用の権利が閉ざされている。自殺している例もある。国外でも周知の事実なのに隠そうとする態度は理解できない。政府報告書は沖縄住民にも触れていない。別個の民族、独立国家だった。差別的政策を強制したのではないか。」(ロドリゲス委員)
「アイヌを先住民と認めているのに、なぜ沖縄は認めないのか。部落民についても聞きたい。世系、祖先の系列にかかわるからインドのカーストに条約適用あることが参考になる。政府はどういう措置を講じようとしているのか。部落地名年鑑による企業の採用差別は本当か。沖縄の独自の言語からみて先住民であると認識するべきではないか。」(ディアコヌ委員)
こうした質問を受けて日本政府は次のように回答した。
「条約1条の世系は、民族的出身に着目したもので社会的出身に着目した概念ではない。従って部落民は条約の対象ではない。沖縄住民は人種であるとは考えられず対象とはならない。沖縄には特色豊かな文化・伝統があるが、日本各地にそれぞれ特色豊かな文化・伝統があるのと同じである。中国帰国者は、第二次大戦前に日本から中国に移住した日本人が中国に残留した後に帰国したもので、日本民族であり、適用対象とはならない。」
解釈の誤りを指摘されても、同じことを繰り返した。そこで委員たちが再び発言した。
「部落民は条約の適用対象であると考えられる。カースト制を参照できる。」(ユーティス委員)
「条約1条は定義をできる限り明らかにしようとしている。インドの状況を参照するべきである。社会的な差別で職業の内容によるものは条約の適用対象である。」(ソーンベリ委員)
以上の討論を踏まえて「最終所見」は、次のようにまとめられた。
「7. 次回報告書において、朝鮮人マイノリティ、部落民および沖縄人集団を含む、条約の適用対象となるすべてのマイノリティの経済的社会的指標に関する情報を提供するよう勧告する。沖縄住民は、独自の民族集団であることを認められるよう求め、現状が沖縄住民に対する差別行為をもたらしていると主張している。」
「 8.委員会は、日本とは反対に、世系という文言は独自の意味をもち、人種や種族的出身、民族的出身と混同されてはならないと考える。部落民を含むすべての集団が、差別に対する保護、および条約5条に規定されている諸権利の完全な享受を確保するよう勧告する。」
アイヌは先住民
日本政府は、「アイヌは日本人より歴史的に先に住んではいたが、先住権のある先住民かどうかは判断できない」という奇怪な主張をしていた。
「アイヌについて人口構成はどうか。伝統的差別があってアイヌと名乗れない、日本名使用、同化政策もある。アイヌについて具体的成果を知りたい。先住民と認めていないのか。」(ロドリゲス委員)
「差別的状況が実際にあるのはなぜか。土地所有権を保障し、民族性を維持し、国際基準に照らして権利を保障するべきである。」(ディアコヌ委員)
「アイヌのプログラムとあるが、マイノリティが問題の根源であるという考えが問題を隠蔽することになる。支配的文化者がマイノリティを取り上げることの意味を考えるべき。アイヌ問題ではない。」(パティル委員)
これに対して日本政府はあくまでも「アイヌ問題」と呼んで、次のように回答した。
「歴史の中では和人との関係で北海道に先住し、独自の文化、言語、固有の文化を発展させてきた民族である。しかし先住民族の定義が国際的に確立していない。先住権との関係で様々な議論があるので、先住民であるか否かは慎重に検討する必要がある。」
これに対して次のような指摘がなされた。
「国際法に先住民の定義がないというが、だからといって標準を明らかにできないというものではない。事実に即して物事を考えることが重要である。定義がないから従わないというのではなく、国家が先住民概念を承認して適用していくことが定義をもたらすことに繋がる。」(ソーンベリ委員)
こうした討議の結果として「最終所見」がまとめられた。
「5.委員会は、アイヌ民族をその独特の文化を享受する権利を有する少数民族であると認定した最近の判決を関心をもって留意する。」
「17.日本が先住民族としてアイヌ民族が有する権利を促進するための措置をとるよう勧告する。土地権の承認・保護、失われたものに対する原状回復と賠償を求める、先住民族の権利に関する一般的勧告23(51)に注意を喚起する。」
在日朝鮮人
日本政府報告書は在日朝鮮人については当然取り上げており、チマチョゴリ事件にも言及しているが、これは社会的な差別であって、政府には責任はなく、しかも事件予防に積極的に取り組んでいるかのように描いている。NGOは、チマチョゴリ事件ではほとんど犯人が検挙されていないこと、政府とメディアに問題があること、民族教育の権利が保障されていないこと、同化政策のもと日本国籍取得にあたっては日本的氏名が強制されていることなどをアピールした。
「外国人の3分の1を占める朝鮮人の法的地位に関する討論の促進や、特別な入国管理法が必要ではないか、法的地位を強化する必要もあるのではないか。日本社会で朝鮮人への理解が深まることを期待する。」(ロドリゲス委員)
「日本国籍を有していない在日朝鮮人は国籍を取得できるのか。国籍取得申請に際して朝鮮名使用ができない現実があるのか。チマチョゴリ事件では、マスコミによる核疑惑騒動によって事件が発生しているが、逮捕は160件のうち僅か3件というが本当か。教育が必要である。こうした現象に対する全国規模での対応が必要ではないか。公立学校でハングル教育はなぜ認められないのか。さらなる改善を期待する。」(ディアコヌ委員)
「特別永住は韓国とだけである。北朝鮮とはどうなのか。」(レチュガ・ヘヴィア委員)
「在日朝鮮人は、多くが市民的政治的権利を制限されている。次回はもっと詳細に報告されることを期待する。」(タン委員)
「在日朝鮮人について日本政府報告書はマイノリティという言葉を用いていないがなぜか。民族名の重要性を指摘したい。差別されることを恐れて民族名を隠して日本名を使用する例が多いという。バイリンガルな教育を受ける権利が認められるべきである。人種差別への対策には適切な法システムが必要であるが、日本は不十分ではないか。人種差別を撤廃する努力をしているというが、撤廃プログラムは法律なしにできるのか。」(ピライ委員)
これに対して日本政府は次のように回答した。
「法的地位は報告書にある通りである。入管特例法が制定され、91年以降日韓で協議している。朝鮮人学生に対する人種差別行為は、法務省が日頃から様々な啓発活動をしている。嫌がらせや暴行は、法務省職員や人権擁護委員が児童・生徒の通学路や交通機関で冊子を配布したり、拡声器で呼びかけをしている。警察も警戒強化をしている。学校その他の関係機関との協力連携を行って未然防止に努めている。94年の検挙は3件である。98年8月から9月には6件を認知したが検挙に至っていない。」
このうち啓発活動や冊子等の配布については、98年のチマチョゴリ事件の際に在日朝鮮人・人権セミナー(筆者)と在日朝鮮人人権協会とが協力して、法務省人権擁護局に実態を説明を求めたが、ほとんど実体のない活動に過ぎないと思われた。2月27日の政府とNGOの意見交換会において、政府は配布したボールペンを初めて提示したが、在日朝鮮人の人権保障とはおよそ無縁のボールペンにすぎない。
委員会の「最終所見」は次のようにまとめられた。
「14.委員会は、朝鮮人(主に子どもや児童・生徒)に対する暴力行為の報告、およびこの点における当局の不十分な対応を懸念し、政府が同様の行為を防止し、それに対抗するためのより断固とした措置をとるよう勧告する。」
「16.朝鮮人マイノリティに影響を及ぼす差別を懸念する。朝鮮学校を含むインターナショナルスクールを卒業したマイノリティに属する生徒が日本の大学に入学することへの制度的な障害のいくつかのものを取り除く努力が行われているものの、委員会は、とくに、朝鮮語による学習が認められていないこと、在日朝鮮人の生徒が上級学校への進学に関して不平等な取扱いを受けていることを懸念する。日本に対して、この点における朝鮮人を含むマイノリティの差別的取扱いを撤廃し、公立学校におけるマイノリティの言語による教育を受ける機会を確保する適切な措置とるよう勧告する。」
「18.日本国籍を申請する朝鮮人に対して、自己の名前を日本流の名前に変更することを求める行政上または法律上の義務はもはや存在していないことに留意しつつ、当局が申請者に対しかかる変更を求めて続けていると報告されていること、朝鮮人が差別をおそれてそのような変更を行わざるを得ないと感じていることを懸念する。個人の名前が文化的・民族的アイデンティティの基本的な一側面であることを考慮し、日本が、かかる慣行を防止するために必要な措置をとるよう勧告する。」
また、日本政府報告書は、来日する外国人労働者の在留資格や就業における問題を取り上げているが、NGOは不十分であるとして独自の報告書を提出した。審議の結果、「最終所見」は、外国人の教育や難民の保護も取り上げている
人種差別禁止法
日本政府は条約を批准した際に、条約4条abの適用を留保した。条約4条abは、人種差別助長扇動を犯罪として処罰することを義務としている。条約4条cは、公務員による差別を禁止している。4条cの適用は留保していない。審議では、人種差別助長扇動に日本政府がどのように対処するのか、なぜ人種差別禁止法を制定しないのかに重点が置かれていた。
「法律制定のみではなく実効性こそが必要である。日本刑法は一般的な性格のものでしかなく、条約は人種差別流布に対する個別規定をつくることを求めている。チマチョゴリ事件を見れば立法の必要性が高い。差別団体禁止措置がまったく存在しない。暴力を用いた場合に限らず差別団体を規制するべきである。4条留保を撤回するよう要請する。」(ロドリゲス委員)
「条約は締約国は人種差別撤廃努力をすると明言している。日本憲法には第14条しかない。これで十分といえるのか。レストラン、飛行機での差別行為にどのような法律が適用されるのか。犯罪行為には実際の制裁が必要である。犯罪は処罰されるというが、暴力や名誉毀損を処罰しているだけで人種差別を処罰していない。人種差別は法律で処罰するべき犯罪である。4条を留保している国でも人種差別処罰法がある(例えば、フランスやイタリア)。外国人嫌悪ポスターが放置されている(神奈川県警ポスター)。 在日朝鮮人誹謗パンフレットが配布されている。外国人嫌悪思想の流布、意図的扇動がなされれば、裏にある意図が何であれ犯行者を起訴するべきだ(誰かがそっと拍手)。日本社会がどのように差別を撤廃するのか知りたい。みんなでお祈りするのか(あちこちから笑いが起きる)。自信をもてばなんとかなるのか。人種差別撤廃は社会に課された責任である。」(ディアコヌ委員)
「日本法は人種差別や流布を犯罪にしていない。人種主義的動機による暴力を犯罪としていない。4条は人種差別団体を取り扱っているが政府報告書には言及がない。憲法14条では不十分である。シンボリックな意味での特別立法をつくることは社会においてあるべき価値観を表明することである。」(デ・グート委員)
「人種差別表現が見られる。在日中国人や日系人についてもそうである。悪質な行為は法的規制するべき。神奈川県警の中国人差別ポスターには驚いた。『携帯電話を使う中国人を見たら110番』。明らかに人種差別であり、許せない(激しい口調で)。4条を施行すればこうした差別発言に法律的に対応できる。」(タン委員)
「人種差別のない社会をつくるには立法が必要である。条約は憎悪言論を禁止している。絶対的な表現の自由は4条を否定するものなので、日本政府は真剣に検討して欲しい。」(シャヒ委員)
これに対して日本政府は次のように回答した。
「処罰立法を検討しなければならないほどの人種差別の扇動は日本には存在しない。憲法は表現の自由を保障している。表現行為の制約には、制約の必要性と合理性が求められる。優越的表現や憎悪の活動の行きすぎは刑法の個別的な罰則で対処する。現行の法体系で十分な措置である。」
これに対して、再度、委員から次のような指摘が続いた。
「4条は、意図の善し悪しにかかわらず、すべての国に拘束力をもつ。予防的性格も重要である。人種差別の流布宣伝はあっという間に広まる。従って予防的性格が重要になる。表現の自由と暴力行為に関して団体規制法がない。日本政府は人種差別団体が存在すると認めているが、処罰はない。しかし、特定の人に対する差別行為や文書流布も暴力行為に匹敵する。他の人々の存在を否定する言論は、物理的暴力よりも激しい暴力となることがある。」(ユーティス委員)
「人種差別禁止法を制定し、処罰と予防と教育を行うべきである。法律はシンボリックな意味もあり社会において無視すべきでない価値観を示すことができる。人種差別宣伝流布が今は行われていないとしても、外国人が増加しているので外国人嫌悪による行為が行われるようになるかもしれない。」(デ・グート委員)
「問題は人種差別に国家がどのように対処するのかである。国家が社会の背後に隠れることは許されない。これは将来重大な問題に発展するかもしれない。」(ディアコヌ委員)
最終所見も禁止法を要請
日本政府は再度回答した。
「人種差別行為を処罰しないということではない。人種差別行為は様々の形で行われるので、それに対応して処罰している。差別的暴力は処罰対象である。現行法で十分担保している。量刑では人種差別的側面も考慮をしている。暴力の動機が人種差別であれば被告人に不利な事情として考慮される。人種的優越・憎悪流布・扇動助長団体という概念は非常に広い概念であり、法的規制は表現の自由にかかわり、処罰することが不当な萎縮効果をもたないか、罪刑法定主義に反しないかという考慮をしなければならない。絶対的な表現の自由を認めるのかとの指摘があったが、表現の自由を絶対化しているわけではない。」
「最終所見」は次のようにまとめられている。
「10.委員会は、関連規定が憲法14条しかないことを懸念する。条約4条・5条に従い、人種差別禁止法の制定が必要である。」
「 11.条約4条abに関して日本が維持している留保に留意する。当該解釈が条約4条に基づく日本の義務と抵触することに懸念を表明する。4条は事情のいかんを問わず実施されるべき規定であり、人種的優越・憎悪に基づくあらゆる思想の流布の禁止は、意見・表現の自由の権利と両立する。」
「12.人種差別それ自体が刑法において犯罪とされていないことを懸念する。条約の諸規定を完全に実現すること、人種差別を犯罪とすること、人種差別行為に対して権限のある国内裁判所等を通じて効果的な保護と救済措置を利用する機会を確保することを勧告する。」
ダーバン2001へ
これ以外にも委員会では重要な指摘がいくつもなされた。その一部を紹介しておこう。
「条約は国連の最初の重要な人権条約であるが、日本は批准に30年かかった。その理由を知りたい。」(アブル・ナスル委員)
日本政府に30年もの怠慢を許してきた法律家・市民・メディアの反省が必要である。
「人権侵犯事件の調査対象には人種差別も含まれる、強制力のない調査は現実的とはいえない、結果として人権侵犯があった場合、加害者に反省させる措置は効果をあげたのか。実際に反省したのか。」(ロドリゲス委員)
石原都知事を見れば答えは明らかであろう。この社会から責任や反省という文字が消失しつつあるようにすら見える。
「7条の意識啓発活動については、特に委員会のコメントを普及するべき。裁判官、警察官、法学部学生、入管職員に徹底するべきである。」(ロドリゲス委員)
自由権規約委員会でも、日本の裁判官が国際人権法を学んでいないことが指摘されたことが思い起こされる。
「人種差別に関する意識を高めることは重要である。一部の日本人は人種的優越感をもっている。軍国主義日本がアジアを侵略したが、その気分が一部に残されている。一般国民への教育が大切である。積極的な措置を期待する。」(タン委員)
歴史を偽造する汚れた教科書が政治力を利用して強引に検定を通過した。中身も人種差別と偏見を煽る粗悪な教科書である。
「複合差別がある。本日3月8日が、女性デーであることも想起して言うのだが、ジェンダーによる人種差別を取り上げるべき。在日朝鮮人女性への暴力被害も報告するべきである。女性が人身売買の被害にあっている。日本人と結婚した女性がDM被害を受け、日本人配偶者の地位を失わないために被害届ができず沈黙している。」(ピライ委員)
ジェンダー差別と人種差別の複合的性格の解明と対策は、委員会でも議論が始まったばかりであり、日本政府の取組みが遅れていること自体はやむを得ない。今後の重要課題である。
この点は「最終所見」にも取り入れられた。
「22.次回報告書に、ジェンダーと民族的・種族的集団ごとの社会・経済的データ、性的搾取や性暴力を含むジェンダー関連の人種差別を防止するためにとった措置に関する情報を含めるよう勧告する。」
人種差別撤廃について、日本はスタートしたばかりである。人種差別の克服にはまだまだ長い歩みが必要である。差別される側にとってはあまりに長い、いつまで待たなければならないのか、と溜息をつくような話になってしまうが、委員会の審査と「最終所見」を武器に、今度は国内で人種差別との闘いの戦線を組み、法律制定や制度改革を一つひとつ実現していくしかない。
「最終所見」は、次のように注文をつけている。
「26.日本政府報告書を一般の人々が容易に入手できるようにすること、報告書に関する委員会の最終所見も同様に公表することを勧告する。」
日本政府と日本社会が人種差別と闘う意思をもてるかどうかが試されている。次回の報告書締切りは2003年1月である。しかし、その前に、2001年8月31日から9月7日まで、南アフリカのダーバンで、「人種差別・人種主義に反対する世界会議」が開催される。国連史上最大規模の国際会議になるだろう。これに向けてアジアでも準備が始まり、2月のテヘラン準備会議では、植民地支配への賠償を求めたテヘラン宣言も採択された。多くのNGOも準備を始めた。日本でも「人種差別撤廃条約NGO連絡会」と同様に、「ダーバン2001」実行委員会が発足した。次は「ダーバン2001」である。
*筆者は『マスコミ市民』『統一評論』『世界』『法と民主主義』にも人種差別撤廃委員会報告を執筆しているので、これらと重複があることをお断りする。